中島唱子 写真:荒木経惟 『脂肪』(新潮文庫)
2009-06-01


禺画像]
中島唱子さんは女優。
しかし、申し訳ないけれど、私は知りませんでした。
(中島さん、すみません)

『脂肪』・・・?
女優さんの本として魅力的なタイトルではありません。
表紙を見る限り、料理本のようでもありません。
まったく、どういう本なのかがイメージできませんでした。

だけど、私は、迷わず、手に取りました。
それは、「写真 荒木経惟」とあったからです。

荒木経惟=アラーキーという人に特別の関心をもったのは、
(先日、ブログで紹介した瀬戸内寂聴さんと荒木さんの本)
『寂聴×アラーキー 新世紀へのフォトーク』のおかげ。
もちろん、有名な方ですから、名前は知っていました。
写真もいくつか知っていたし、書かれた本も読んでいました。
だから「人並みはずれた人」だとは思っていたのです。

しかし、私の見方が狭いんでしょうね。
外見にも左右されてしまうんでしょうね。

「アトムヘアーにサングラスをしているエロイ人」
(すみません)の範囲を超えていなかったのです。

だけど、なんかちがうって気がついたのです。
すこし説明がいりますね。

中島唱子さんの『脂肪』はダイエットの本なんです。
しかし、他のダイエット本とは出発点がちがうのです。

食欲は、愛情に飢えた私の、不安や恐怖や孤独を紛らわせてくれる一瞬の幸福感。一種の精神安定剤のようなものだった。そんなさみしい人生だったように思う。体をいじめ、裏切った代償として、結局、心身ともに重い贅肉を背負ってしまった。
彼女は「こころのダイエットが必要」というところにたどりつくのです。つまり、「生きる歓びそのものを実感するまでは、内面を削ぎ落としていくダイエットも必要」だと。

「この脂肪の下には、どんな私が眠っているのだろう」二十代の終わりを目前にして、私は、未知の自分を探そうと決心した。そのためには、いままでの自分のすべてを透視するほどのこころのダイエットが必要かもしれない。太ってしまったルーツは、この、こころのなかにあるに違いない。
そして、肉体のダイエットに挑みながら、自分を見つめるため文章を書き始めるのです。

では、なぜ写真なのか、なぜ荒木経惟なのか。

たった一冊の写真集が、アラキワールドへと私を引きずり込むきっかけとなった。
「センチメンタルな旅・冬の旅」。最愛の妻・陽子さんとの新婚旅行と、死出の旅の両極をまとめたこの作品集は、いいようのない感動で私を包んだ。アラキさんの写真には、詩があり、風土があり、エロスがあり、人間らしさがあった。まさに、こころのレントゲン写真師だ。
私は、ただ「肥満」を見せるのだから、つらい。ふれてもらいたくない最大の羞恥をさらけ出す以外に、アラキさんの前に立つ方法はない。
 脂肪を削ぎ落とす過程を是非、アラキさんに収めてもらいたかった。私にとって、脂肪は、蓄積して背負ってきた哀歌そのもの。アラキさんになら、それをさらけ出せるような気がした。
そして、

私はアラキさんに、肉体とともに、こころも生きざまも、あらいのままにさらけだした。それは、すべてを許した恋人にしかできないことだった。
自分の人生を見つめ、それをつくりかえる決意でダイエットに取り組む女性がいるということを初めて知りました。そして、その文章は、生い立ちから、このときまでをあからさまに語ったものでした。
 それに感動するばするほど、その女性に信頼され、ゆだねられる写真家を尊敬しないわけにはゆかないのでした。
[本]

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